「二要素認証」と「二段階認証」: どの企業がどの用語を使っているか

2020/04/28

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2019年末に、エンジニア向け情報共有サイトのQiitaに、「平成のうちにやめたかった『ITの7つの無意味な習慣』」という記事が投稿され、大きな話題を呼びました。

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このQiita記事の中で、トラスト・ログインの公式ブログ記事「『二段階認証』の誤解を解く。『二要素認証』『多要素認証』と何が違うか」を引用頂き、多数のアクセスを頂きました。

当社作成記事については多くの肯定的なコメントを頂きましたが、その中には「大手ベンダーが2つの認証要素を使った認証を『二段階認証』といっているのだから、『二要素認証』を『二段階認証』と記載しても間違いない」といったコメントがありました。

ここで改めて、「二段階認証」「二要素認証」という語について確認してみるとともに、「2つの認証要素を使った認証についての表記を『二段階認証』とするベンダー、また『二要素認証』とするベンダー」についてリストアップしてみたいと思います。

なお、作成リストの目的は、特定のベンダーを名指しして非難するものではありません。正しい表記を使いましょう、という警鐘を鳴らすために作成したものです。

 

 

2つの認証要素を使った認証の表記は「二要素認証」が正しい

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はじめに、世界の電子認証に関するガイドラインは事実上、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)により定められています。具体的には、NIST 800-63というガイドライン(ならびその改訂版、以下NISTガイドラインと略)が用いられています。よって、セキュリティの研究者など一部の専門家を除き、「何が正しい」「何が正しくない」という議論は、このNISTガイドラインに基づいて行われるべきです。

・NISTガイドラインについてはこちらをご覧ください。
世界の電子認証基準が変わる:NIST SP800-63-3を読み解く

NISTガイドラインでは、認証の強度について「認証の段階」では説明されていません。重要なのは「知識要素」「所持要素」「生体要素」という認証要素を複数用いること、ならび特に強い強度の認証を求める場合は専用の物理デバイスを利用すること、と記載されています。これは、AAL1, AAL2, AAL3というレベルで表現され、数が多いほど強度が高くなります。

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よって、「認証段階が二段階であること」を示した「二段階認証」という表記は、そもそも正しくないだけでなく誤解を招きます。大切なのは認証要素なのだから、「二要素認証」、または「多要素認証」と表記すべきです。

 

 

どの企業が「二段階認証」を使っているか調査

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前項で、二要素を使った認証の表記は「二要素認証が正しい」とご紹介しました。では、どのベンダーが「二段階認証」を用いているか、どのベンダーが「二要素認証」を用いているかを見ていきましょう。

以下では、外資系ならび日本企業(IT企業、通信企業、オンラインサービス企業)をそれぞれ25社ずつピックアップして、その表記について確認していきます。なお、下記リストは2020年1月時点で当社が調査を行ったもので、その完全性に関しては保証致しかねますのでご理解ください。

 

外資系企業

No.

会社名・サービス名

日本語

英語

1

Google

2段階認証

Two-Step verification

2

Apple

2ファクタ認証

Two-factor authentication

3

Facebook

二段階認証

Two-factor authentication

4

Amazon (EC)

2段階認証

Two-Step Verification

5

Amazon (AWS)

多要素認証

Multi-Factor Authentication

6

Microsoft

2段階認証

多要素認証

Two-Step verification

Multi-Factor Authentication

7

Oracle

MFA機能

Multi-Factor Authentication

8

Salesforce

2要素認証

Two-factor Authentication

9

Instagram

二段階認証

Two-factor authentication

10

Twitter

2要素認証

Two-factor authentication

11

Adobe

2段階認証

Two-step verification

12

SAP

2要素認証

Two-Factor Authentication

13

Intel

多要素認証

Multi-Factor Authentication

14

Cisco

二要素認証

Two-Factor Authentication

15

Symantec

2要素認証

Two Factor Authentication

16

IBM

2要素認証

Two-factor authentication

17

HPE

多要素認証

Multi-Factor Authentication

18

HP

多要素認証

Multi-Factor Authentication

19

DELL

2要素認証

Two-Factor Authentication

20

Lenovo

二要素認証

二段階認証

Two-Factor Authentication

21

VMware

2要素認証

Two-Factor Authentication

22

Dropbox

2段階認証

Two-step verification

23

Slack

2要素認証

Two-Factor Authentication

24

McAfee

二要素認証

Two-factor authentication

25

Evernote

2段階認証

Two-Step Verification

 

 

日本企業

No.

会社名・サービス名

日本語

英語

1

富士通

二要素認証

2段階認証

Two-Factor Authentication

2

日立

二要素認証

Two-Factor Authentication

Multi-Factor Authentication

3

NEC

二要素認証

Two-factor authentication

4

NTTドコモ

2段階認証

Two-step verification

5

KDDI

2段階認証

Two-Factor Authentication

6

ソフトバンク

多要素認証

記載なし

7

楽天

2段階認証

Two-Factor Authentication

8

ソニー (PSN)

二段階認証

Two-Step Verification

9

Freee

二要素認証

記載なし

10

マネーフォワード

二段階認証

記載なし

11

Chatwork

二段階認証

Two-factor Authentication

12

BASE

2段階認証

記載なし

13

クラウドサイン

2段階認証

記載なし

14

ニフクラ

二段階認証

記載なし

15

Sansan (Eight)

2段階認証

記載なし

16

任天堂

2段階認証

Two-factor Authentication

17

DMM

2段階認証

記載なし

18

オービック

二要素認証

多要素認証

記載なし

19

クラウドワークス

二段階認証

記載なし

20

SmartHR

2段階認証

記載なし

21

トレンドマイクロ

二段階認証

二要素認証

Two-Factor Authentication

Mulfi-Factor Authentication

22

サイボウズ

二段階認証

記載なし

23

IDCフロンティア

2段階認証

記載なし

24

さくらインターネット

2段階認証

記載なし

25

カオナビ

2段階認証

記載なし

 

 

調査結果

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「2要素認証」についての用語についての調査で、(調査サンプルは多くないですが)以下の傾向が読み取れたかと思います。

  • 外資系企業で、日本語で「二段階認証」を用いていたのは、25社中9社(うち2社は「多要素認証」「二要素認証」との併用)。割合は36%。
  • 外資系企業で、英語で「Two-Step Verification (二段階認証)」を用いていたのは、25社中6社(うち1社は、Multi-Factor Authenticationとの併用)。割合は24%。
  • 日本企業で、「二段階認証」を用いていたのは、25社中21社(うち2社は、二要素認証との併用)。割合は84%。
  • 外資系企業と比べ、日本企業のほうが圧倒的に多く「二段階認証」という用語を使っている。
  • 外資系企業の中には、英語では「Two-Factor Authentication(二要素認証)」となっているが、日本語に翻訳する際に「二要素認証」ではなく、「二段階認証」と表記している企業がある。

日本では、二要素認証(ならび略語の2FA)や、多要素認証(ならび略語のMFA)という用語は浸透しておらず、二段階認証という用語が多く用いられていることが分かりました。

現在、まだ多くのサイトで利用されている「二要素でない二段階認証(秘密の質問など)」がなくなれば、「二段階認証≒二要素認証」となりますが、それに至るまでは用語の混乱がまだ続きそうです。