顧客ID管理の最適解:CIAMとIDaaS・IAMの違いと使い分け戦略
CIAMは、デジタル化が進んだ現代の顧客情報管理には欠かせないソリューションです。Webサイトやアプリケーション、SNSなど、企業と顧客の接点が増加したことにより、企業が保有し管理する個人情報の量は膨大です。それにともない管理も煩雑さを増し、セキュリティリスクの懸念も増大したといえます。
そこで注目されている手法が「CIAM」です。本記事ではCIAMとはどのようなソリューションなのか、また同様に扱われがちな「IAM」「IDaaS」「EIAM」とは何が異なるのか、そしてCIAMの導入が企業にどのようなメリットをもたらすのかについて詳しく解説します。
■CIAM(Customer Identity and Access Management)とは?
CIAM(Customer Identity and Access Management)は、企業が顧客にサービスを提供する際に生成したIDを管理するためのソリューションです。自社のオンラインストアやWebサイト、アプリケーションなどのセキュリティを強化し、個人情報の漏洩を防ぎつつ、ユーザビリティの向上とスムーズなアクセス管理を実現するために利用されます。「BtoC」「BtoB」いずれの場面でも活用されています。
例えば小売業界やeコマースで、複数のサイトやアプリケーション間でのシームレスなログインを可能にしたり、顧客の購買履歴や行動データと連携して個別にカスタマイズされたおすすめ商品の紹介やキャンペーンの配信に活用したりできます。金融業界では厳格な本人確認、高度なセキュリティによって、不正アクセスや不正送金リスクの低減に役立っています。
インターネットを介してさまざまなアプリケーションやサービスを往来する現代において、CIAMは企業が顧客との信頼関係を強化するためのサポートツールといえるでしょう。
■CIAMとIAM・IDaaS・EIAMとの違い
企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)やクラウド活用が進む中で、ID管理の重要性が増しています。そこで注目されるのが、ID管理を担う「CIAM」「IAM」「IDaaS」「EIAM」という4つのソリューションです。
これらは一見似ているようで、それぞれ対象ユーザー・導入目的・運用環境が異なります。本記事では、CIAMと他ソリューションの違いに加え、IDaaS・IAM・EIAM間の選び方もわかりやすく解説します。
◇CIAM(Customer Identity and Access Management)
対象:顧客(エンドユーザー)
用途:Webサービス・ECサイト・会員制プラットフォーム
特徴:ユーザー体験(UX)を重視し、ビジネス成長に貢献
CIAMは、顧客向けのID管理に特化した仕組みです。大量のユーザーに対応できるスケーラビリティを備え、SNSログインやパスワードレス認証といった利便性の高い機能を提供します。
主な導入理由
- ・顧客離脱を防ぎ、UXを向上させたい
- ・行動データをマーケティングに活用したい
- ・ログイン時のセキュリティを強化したい
例:ECサイトで、ワンクリック購入やリコメンド機能と連携
◇IAM(Identity and Access Management)
対象:従業員(社内ユーザー)
用途:社内のシステムやリソースへのアクセス管理全般
特徴:アクセス権の制御とセキュリティ管理を統括する“仕組み”
IAMは、ID管理の基盤そのもので、社内ユーザーの「認証」「認可」「アカウント管理」を一元的に実現するための枠組みです。IAM自体は概念であり、オンプレミス環境やクラウド上に構築可能です。
主な導入理由
- ・内部不正のリスクを減らしたい
- ・人事異動に応じてアクセス権を動的に管理したい
例:部署異動時に自動でシステムアクセス範囲が変更される仕組み
◇IDaaS(Identity as a Service)
対象:従業員(クラウド利用前提の企業)
用途:SaaS時代のID管理をクラウドで簡単導入
特徴:IAMの機能をクラウドサービスとして提供、導入・運用が容易
IDaaSは、IAMの機能をクラウドで提供する形態です。Google WorkspaceやMicrosoft 365など複数のSaaSを利用する企業にとって、IDの一元管理とシングルサインオン(SSO)による利便性が魅力です。
主な導入理由
- ・導入・運用の負担を軽くしたい
- ・迅速にID管理をクラウド化したい
- ・多要素認証(MFA)を低コストで実現したい
例:1つのIDでGoogle・Slack・Salesforceへシームレスにログイン可能
◇EIAM(Enterprise IAM)
対象:大企業・グループ企業・多拠点組織
用途:複雑な組織体制における統合ID管理
特徴:IAMを大規模・複雑な環境に対応できるよう拡張したソリューション
EIAMは、IAMをエンタープライズ環境向けに最適化したもので、特に次のような要件を持つ企業に向いています。
- ・数万人規模のユーザーを安全に管理
- ・グループ企業間でのID連携・統合
- ・各地域・部門のポリシー差異にも柔軟に対応
主な導入理由
- ・グローバル組織全体でIDを統一したい
- ・高度な監査・レポーティング要件に対応したい
例:多国籍企業でEUと日本の認証ポリシーを分けつつ、共通基盤で管理
■なぜ今CIAMが重要なのか?
ではなぜCIAMが重視されるようになったのでしょうか。現代ならではの背景をもとに、CIAMが重要とされる理由について解説します。
近年、CIAM(Customer Identity and Access Management)という顧客向けID管理の重要性が高まっています。これは、デジタル化の進展とともに企業と顧客の関係性が複雑化し、従来のID管理では対応しきれない課題が増えてきたことが背景にあります。ここでは、CIAMがなぜ今の時代に求められているのか、その理由を3つの視点から整理してみましょう。
◇顧客管理の複雑化
企業と顧客との接点は、Webサイトに限らず、アプリ、SNS、ECサイトなど多岐にわたるようになりました。さらに、これらを横断的に活用する「オムニチャネル戦略」も広まり、マーケティングやサービス提供の手法が一変しています。
一方で、チャネルごとに個別のIDを発行・管理していると、企業側の運用が煩雑になり、顧客にとってもパスワードの管理が負担となります。ログインのたびに異なる認証情報を入力するストレスや、パスワードの使い回しによるセキュリティ低下も懸念されるでしょう。
こうした課題を解決する手段としてCIAMが注目されています。CIAMは複数のチャネルにまたがるIDを統合管理することで、企業の運用効率と顧客の利便性を同時に向上させるのです。チャネルの多様化に対応し、快適な顧客体験を維持するための鍵となっています。
◇分散した顧客データがマーケティングの障害に
クラウド化が進んだ現代でも、個々のサービスごとに顧客情報が分断されているケースは少なくありません。保存形式の違いや、重複データ、最新情報の特定が困難になることもあります。
このようにデータが分散・分断された状態では、顧客を正確に把握することができず、マーケティング施策の立案や効果測定に大きな影響を与えかねません。
CIAMを導入することで、各チャネルで得られた顧客情報を一元的に統合・管理できるようになります。結果として、データに基づく精度の高いマーケティングが実現し、顧客へのアプローチも効率的かつ的確になるのです。
◇セキュリティリスクの増大と顧客保護の重要性
複数のチャネルを運用することは、利便性向上につながる一方で、セキュリティ管理の複雑化も引き起こします。とりわけ、顧客が複数のサービスで同じパスワードを使い回すと、アカウントの乗っ取りや情報漏えいのリスクが高まるでしょう。
さらに、サイバー攻撃の高度化に加え、GDPRやCCPAといった厳格なプライバシー保護規制のもと、企業は一層の情報管理体制強化を迫られています。
このような状況に対応するため、CIAMには多要素認証(MFA)やデータ暗号化、柔軟なアクセス制御など、高度なセキュリティ機能が備わっています。顧客情報を守ると同時に、安心してサービスを利用してもらう基盤として、CIAMは欠かせない存在といえるでしょう。
■CIAMのおもな機能
ここからは、CIAM(Customer Identity and Access Management)が有する代表的な機能について、わかりやすくご紹介します。いずれも、顧客体験の向上と企業の運用効率、そして情報セキュリティを高めるために欠かせない要素です。
◇ユーザー登録・管理
CIAMでは、顧客自身がユーザー名・パスワード・個人情報などを登録・更新・削除できる仕組みが整っています。また、異なるドメインや複数のアプリケーション間でもID情報を共有できるため、サービスをまたいでも一貫したログイン体験を実現します。
さらに、CIAMを活用することで、顧客情報の一元管理が可能になります。これにより、運用管理が効率化されるだけでなく、サービスごとにアクセス権を細かく設定する「権限管理」も行えるようになります。セキュリティを確保しながら、使いやすさも損なわない―CIAMの重要な特長です。
◇シングルサインオン(SSO)
シングルサインオン(SSO)は、一度のログインで複数のサービスへ連携できる認証方式です。たとえば、企業が提供するWebサービスやアプリケーション間を、顧客は1回の認証だけで行き来できるようになります。
これにより、毎回異なるIDやパスワードを入力する手間が省け、ログインに対するストレスが軽減されます。利便性が向上するだけでなく、複数の関連サービスを横断的に活用してもらいやすくなり、クロスセルやアップセルのチャンス拡大にも貢献します。
◇多要素認証(MFA)
多要素認証(MFA)は、パスワードに加えてもう1つ以上の要素(例:SMSコード、指紋、顔認証など)を使って本人確認を行うセキュリティ対策です。
仮にパスワードが流出した場合でも、他の認証要素がなければ不正ログインはできません。セキュリティリスクを大きく抑えることができ、利便性を保ちながらも高い安全性を実現する方法として、多くの企業が導入を進めています。 また、CIAMによっては顧客データの暗号化機能を併せ持つものもあり、さらに強固な情報保護が可能です。
◇ソーシャルログイン連携
Google、Yahoo!JAPAN、LINE、Facebookなどのソーシャルメディアアカウントを利用してログインできるのが「ソーシャルログイン」です。
この仕組みにより、顧客は新たにIDやパスワードを作成・管理する必要がなくなります。ボタン一つでの簡単ログインが可能になり、サービスへの登録・利用のハードルが下がることで、ユーザー獲得の促進にもつながります。
◇プロファイル管理とデータ連携
CIAMは、顧客の趣味・関心・購入履歴など、さまざまな情報を統合的に管理できます。さらに、これらのデータをAPI経由でMA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客関係管理)と連携することで、高度なマーケティング施策の実行が可能となります。
具体的には、パーソナライズされた情報提供、リアルタイムなおすすめ表示、精度の高いターゲティングなどに活用できます。結果として、顧客満足度の向上と売上増加の両立が期待されます。
◇プライバシー管理
CIAMは大量の個人情報を取り扱うため、プライバシー保護は不可欠です。顧客に対しては、どのような目的で情報を取得・利用するのかを明確にし、同意を得る必要があります。
多くのCIAMでは、GDPRやCCPAなど各国の個人情報保護法に対応するための機能が備わっており、例えば以下のような対応が可能です:
- ・同意の取得・管理・記録
- ・顧客による情報の閲覧・訂正・削除の実施
- ・法令変更に迅速に対応できる設定管理
このように、法令遵守と透明性を両立させながら、顧客に安心してサービスを利用してもらえる環境を構築できます。
■CIAMを導入するメリット
CIAM(Customer Identity and Access Management)を導入することで、サービスを提供する企業と顧客の双方にとってさまざまなメリットが生まれます。ここでは、具体的なメリットを4つの観点から整理してご紹介します。
1. 顧客体験(UX)の向上
CIAMに搭載されているシングルサインオン(SSO)やソーシャルログイン機能を活用することで、ユーザーは煩雑なID・パスワードの管理から解放されます。新たなアカウントを作成する必要がなくなり、普段使用しているSNSアカウントなどからスムーズにログインできるため、登録から利用開始までのストレスが大幅に軽減されます。
また、複数のサービス間でログイン情報が統一されることで、シームレスな移動が可能となり、サービス全体を通じた一貫した体験が提供されます。これにより、ユーザーの利便性が向上し、結果として顧客満足度の底上げが期待できるでしょう。
2. セキュリティレベルの強化とリスク低減
セキュリティの観点でもCIAMは大きな効果を発揮します。特に多要素認証(MFA)の導入により、単一のパスワードに依存しない堅牢な認証プロセスを構築可能です。仮にIDやパスワードが流出したとしても、追加の認証要素が必要となるため、不正アクセスのリスクを大幅に抑えることができます。
さらに、データの暗号化やアクセス制限など、高度なセキュリティ機能を一元的に管理できる点も魅力です。複数のチャネルやサービスにまたがるセキュリティ対策をCIAMで統一することで、管理工数を削減しつつ、セキュリティ水準を均一化できます。利便性を損なうことなく安全性を高められるのは、CIAMの大きな強みと言えるでしょう。
3. マーケティング施策の最適化とCV向上
CIAMの導入により、マーケティング活動もより効率的に行えるようになります。たとえばソーシャルログインの活用は、ユーザー登録の心理的ハードルを下げ、コンバージョン率(CVR)の向上に直結します。
さらに、登録時に取得した属性情報や行動履歴をもとに、**パーソナライズされた情報配信が可能となり、顧客一人ひとりに最適なタイミングと内容でアプローチできるようになります。**その結果、広告のターゲティング精度が向上し、マーケティングROIの改善にもつながります。
また、サービス横断での購買履歴や閲覧履歴の統合により、クロスセルやアップセルの機会を可視化し、より戦略的な施策の実行が可能になります。CIAMは単なるID管理にとどまらず、ビジネス成長のためのマーケティング基盤としても機能します。
4. コンプライアンス対応とプライバシー保護の両立
個人情報保護への関心が高まる中、CIAMは企業が法的義務を果たす上でも欠かせない仕組みです。国内の個人情報保護法はもちろん、GDPRやCCPAといった海外の法規制にも対応可能な設計がなされており、国境を越えたデータ管理にも柔軟に対応できます。
具体的には、「情報の取り扱い目的の提示と同意の取得」「ユーザーによるデータ修正・削除の自己管理」「同意履歴の記録と保管」など、法令に準拠した運用を実現する機能が搭載されています。
これにより、法令順守はもちろん、顧客に対して透明性と信頼を提供できる点も、CIAMの導入メリットのひとつです。
■CIAM導入に関する課題
一方でCIAMの導入には、いくつか課題もあります。ここでは、考えられる課題について解説します。
◇自社開発、レガシーシステムとの統合の難しさ
CIAMを本格的に自社開発する場合、auth0(オースゼロ)というID管理基盤を使ってシステムを構築する必要があります。これには高度な技術と専門知識が求められるうえ、初期設定には多くのリソースも必要です。そのため「すぐにCIAMを実行したい」「専門スキルを持つ人材はいないがCIAMを導入したい」という場合には、自社での開発は現実的とはいえないでしょう。
そこで、一般的にはCIAMソリューションを導入する方法が採られます。しかしこちらも既存システムと統合するためには、それぞれにカスタムコーディングが必要な場合もあるなど、技術的に難しい面があります。導入するCIAMを選定する際には、既存システムとの統合のしやすさを重視する必要があります。
◇ビジネスニーズやセキュリティポリシーへの対応力
ビジネスニーズやセキュリティポリシーは企業ごとに異なり、自社にマッチしないCIAMを導入しても有効活用はできません。そのため、高いカスタマイズ性と柔軟性を備えたCIAMを選ぶことが重要ですが、設定が複雑すぎると管理が難しく保守性を損なうことも考えられます。CIAMを導入する際には既存のサービスと連携しやすいなど、自社にマッチした機能を搭載しているかを見極め、選択する必要があります。
◇管理者に求められる専門知識
CIAMはID管理を円滑にしますが、最も効果的な活用方法は企業によって異なります。また「トラブル発生時の対応がわからない」「そもそも初期設定できない」など、ある程度の知識を持った人材がいないとCIAMの導入そのものが難しい場合もあります。CIAMの導入を検討するなら「初期設定からの運用相談」「トラブル発生時の対応」など、サポート体制が充実しているかどうかについて確認することも重要です。
■顧客ID管理は「CIAM」、従業員のID管理は「GMOトラスト・ログイン」
顧客IDの管理において、CIAM(Customer Identity and Access Management)を活用することで、ユーザビリティの向上とシームレスなアクセス体験の提供、さらにはマーケティング活動の最適化まで実現できます。たとえば、シングルサインオンやソーシャルログインを導入することで、顧客は煩わしいID・パスワードの管理から解放され、スムーズなログインが可能になります。
一方で、社内で働く従業員にとっては、業務で使用する複数のシステムやクラウドサービスにアクセスするたびに異なるID・パスワードを使用することは、業務効率の低下を招くだけでなく、IDの使い回しや管理ミスによる情報漏えいリスクを高める要因にもなります。特に、顧客情報を扱う部署では、このようなセキュリティリスクは見過ごせません。
こうした課題に対して有効なのが、IDaaS(Identity as a Service)の導入です。
GMOグローバルサインが提供する「トラスト・ログイン」は、IDaaSとしての基本機能に加え、高度なアクセス制御と統合管理機能を備えており、社内のあらゆるサービスへのアクセスをセキュアかつスムーズに実現します。
CIAMで収集・管理した顧客プロファイル情報を安全に社内で活用するには、その管理環境自体のセキュリティを強化する必要があります。IDaaSを併用することで、顧客情報を守りながら業務効率を最大化し、社内からの情報活用をスムーズに進めることが可能になります。
CIAMとIDaaSの併用は、単なるID管理の効率化にとどまらず、「顧客体験」と「従業員の業務効率」、そして「セキュリティ」のすべてを両立させる、現代の企業にとって不可欠なソリューションといえるでしょう。
■まとめ
オンラインサービスの多様化とユーザーエクスペリエンスの向上が求められるなかで、サービスを提供する事業者にとってCIAMの活用は有効な方法です。マーケティング施策の最適化にも役立つため、ビジネスの拡大にもつながるでしょう。ただし、CIAMの導入により顧客情報の漏洩リスクの軽減が期待できる一方で、そもそも社内のID管理意識やセキュリティ対策に問題があれば意味がありません。
GMOトラスト・ログインは、社内・従業員のID管理に貢献するソリューションです。セキュアな環境下で顧客情報を一元管理することで、システム間のシームレスなアクセスを可能にし、円滑で安全なID管理をサポートします。気になる方はぜひお気軽にお問い合わせください。
この記事を書いた人
GMOグローバルサイン株式会社
トラスト・ログイン事業部
プロダクトオーナー
森 智史
国内シェアNo.1のSSL認証局GMOグローバルサインで10年間サポート部門に従事。抜群の知識量と分かり易い説明で多くのお客さまからご支持いただく。
現在は自社IDaaSのプロダクトオーナーとしてお客さまの意見を伺いながら使いやすくセキュリティの高いサービスを開発者たちと共に作成中。