ワンタイムパスワードの仕組みとは?初心者にもわかるOTPの基本から安全性まで徹底解説

サイバー攻撃の巧妙化にともない、従来のIDとパスワードのみの認証では情報漏洩のリスクが高まっています。こうしたリスクへの有効な対策として注目を集めているのが、一度しか使えない「ワンタイムパスワード(OTP)」です。
この記事では、ワンタイムパスワードがどのように安全性を担保しているのか、認証の仕組み、種類などを網羅的に解説します。さらに、導入のメリット・デメリットや具体的な活用シーン、安全性をさらに高めるための対策なども詳しくご紹介します。
■ワンタイムパスワード(OTP)とは?
ワンタイムパスワード(OTP:One Time Password)とは、一度だけ利用可能な使い捨てのパスワードです。おもにログインや認証の際に自動生成され、設定された有効期限(30秒~数分程度)を過ぎると無効になります。
一度使用すると再利用できないため、たとえ第三者に知られたとしても再度使われる心配はありません。
◇ワンタイムパスワードが必要とされる理由
従来の固定パスワードだけによる認証は、リスト型攻撃やフィッシング詐欺などによる情報漏洩や悪用のリスクを抱えています。もしパスワードが流出してしまえば、第三者によるなりすましや不正アクセスを許してしまうおそれがあります。 このような背景から、固定パスワードの弱点を補う強固なセキュリティ対策として注目されているのがワンタイムパスワードです。ワンタイムパスワードは使い捨てで短時間しか有効ではないため、不正利用のリスクを大幅に低減できます。
◇多要素認証(MFA)とワンタイムパスワードの関係性
多要素認証(MFA)は、2つ以上の要素を組み合わせて本人確認を行なう仕組みです。一般的に、以下の3種類の情報を組み合わせて認証を行ないます。
| 知識情報 | 本人だけが知っている情報 (例:パスワード、PINコードなど) |
| 所持情報 |
本人だけが持っているモノ |
| 生体情報 | 本人固有の身体的特徴 (例:指紋、顔、静脈、虹彩など) |
ワンタイムパスワードは、このうちの「所持情報」に該当します。例えば、IDや通常のパスワード(知識情報)に加えてワンタイムパスワード(所持情報)を入力することで、より安全な多要素認証を実現できます。
■ワンタイムパスワード認証のおもな仕組み
ここでは、ワンタイムパスワード認証の仕組みについて、代表的な「時刻同期方式」「チャレンジレスポンス認証」を中心に解説します。
◇時刻同期方式(タイムスタンプ認証)
時刻同期方式は、現在の時刻をもとにワンタイムパスワードを生成する方式で、広く利用されている仕組みです。
利用者が持つ専用端末やスマホアプリ(トークン)と、認証サーバーがあらかじめ共有した秘密鍵と同期された時刻情報を利用して、それぞれ同じアルゴリズムでパスワードを生成します。トークンに関しては、のちほど詳しく解説します。 利用者が入力したパスワードとサーバー側で生成したパスワードが一致すれば、認証が成功する仕組みです。
◇チャレンジレスポンス認証
チャレンジレスポンス認証は、認証サーバーと利用者との間で情報のやり取りを行なう対話型の認証方式です。
まず、認証サーバーが「チャレンジ(ランダムな文字列)」を利用者に送信します。利用者はそのチャレンジをもとに、秘密鍵やパスワードを使って計算した「レスポンス」をサーバーに返します。 サーバー側でも同じ計算を行ない、結果が一致すれば本人であると認証する仕組みです。この方式は通信経路上での盗聴に強く、取引内容の正当性確認など、高いセキュリティが求められる場面で利用されます。
◇その他の認証方式(カウンタ同期・マトリクス認証)
ワンタイムパスワードの認証方式には、ほかにもカウンタ同期方式やマトリクス認証などがあります。
カウンタ同期方式は、トークンのボタンを押すたびにカウンタが進み、それに応じてパスワードが生成される仕組みです。一方、マトリクス認証は画面やカード上に表示されたマス目のうち、指定された位置の文字を入力して本人確認を行なう方式です。 現在は、時刻同期方式やチャレンジレスポンス認証が主流ですが、これらの方式も特定のシステムや利用環境で活用されています。
■ワンタイムパスワードの4つの種類

ワンタイムパスワードを利用するには、生成されたパスワードを受け取るための媒体を選択する必要があります。ここでは、主要な4つの種類について解説します。
◇ハードウェアトークン|専用端末でパスワードを表示
ハードウェアトークンとは、ワンタイムパスワードを生成・表示するためだけの物理的な専用機器です。キーホルダー型やカード型などの形状があり、ボタンを押すと液晶画面にパスワードが表示される仕組みが一般的です。
インターネット接続が不要でオフライン環境でも利用できるため、ほかのデバイスからマルウェア感染などの影響を受けないという高い独立性が強みです。
◇ソフトウェアトークン|スマホアプリで手軽に利用
ソフトウェアトークンは、スマートフォンに「Google Authenticator」などの専用認証アプリをインストールして利用する方式です。
利用者はアプリを起動するだけで、画面に表示されるワンタイムパスワードを確認できます。 専用端末を持ち運ぶ必要がなく、多くの場合は無料で導入できるため、手軽にセキュリティを強化できる点が大きなメリットです。
◇メール・SMS|登録した連絡先にコードを送信
サービスに登録したメールアドレスや携帯電話番号(SMS)宛に、ワンタイムパスワードとなる認証コードを送信してもらう方式です。
専用機器やアプリが不要で、多くのユーザーが日常的に利用している手段で、導入のハードルが低い点が特徴です。
ただし、フィッシングの標的になりやすい点や、通信障害による遅延・不達のリスクも考慮する必要があり、近年では選択肢として見直されています。
◇電話音声|自動音声でパスワードを通知
認証時に、登録した電話番号宛に自動音声ガイダンスの電話がかかり、パスワードが伝えられる方式です。
おもにSMSやメール、アプリが使えない場合の代替手段として提供されています。 画面を盗み見されるショルダーハッキングのリスクを防げる点がメリットですが、設定や通信状況などによっては電話を受け取れないケースがあるため注意が必要です。
■ワンタイムパスワードのおもな活用シーン

ワンタイムパスワードは高い安全性を活かし、さまざまなオンラインサービスでセキュリティ強化の手段として導入が進んでいます。ここでは、代表的な5つの活用シーンを紹介します。
◇インターネットバンキング|お金の取引を安全にする
インターネットバンキングでは、ログイン時だけでなく、振込や送金といった金銭が動く重要な取引の最終承認段階でワンタイムパスワードが広く利用されています。 万が一、ログインIDやパスワードがフィッシングなどで盗まれたとしても、この認証が最後の砦となり水際で不正送金を防ぎます。金融機関ではセキュリティ対策の要として導入されており、利用者の資産保護には不可欠な仕組みです。
◇暗号資産取引|デジタル資産の流出を防ぐ
価格変動が激しく、取引が24時間行なわれる暗号資産(仮想通貨)の世界では、資産の盗難を防ぐための強固なセキュリティが極めて重要です。
多くの取引所では、ログイン時や日本円・暗号資産の出金時などにワンタイムパスワードによる二段階認証を導入しています。ワンタイムパスワードによって、第三者による不正アクセスや、保有するデジタル資産の不正な持ち出しを効果的に防止できます。
◇リモートワーク|社外からのアクセスを保護する
リモートワークの普及にともない、社外から社内ネットワークへ安全に接続するために、VPN認証の重要性が増しています。従来のIDとパスワードによる認証にワンタイムパスワードを加えることによって、認証プロセスが大幅に強化されます。
なりすましによる不正アクセスを防止し、従業員がどこからでも安全に社内の情報資産へアクセスできる環境を構築可能です。
◇社内システム|なりすましログインを防ぐ
企業の基幹システムや顧客管理(CRM)、人事システムなど、機密性の高い情報を取り扱う社内システムへのログイン認証に対してもワンタイムパスワードは有効です。
特に、退職した従業員のアカウントが悪用されるケースや、外部からの不正ログインを防ぐうえで効果を発揮します。多要素認証の一環として導入することにより、内部・外部双方の脅威から重要なデータを保護します。
◇クラウドサービス|アカウントの乗っ取りを防ぐ
業務で利用するGoogle WorkspaceやMicrosoft365といったクラウドサービス、あるいはSNSやWebメールなども、アカウント乗っ取りの標的となりやすいサービスです。
これらのサービスにワンタイムパスワードを追加設定しておくことで、万が一パスワードが漏洩した際、第三者にアカウントを乗っ取られるリスクを大幅に減らせます。
■ワンタイムパスワードの5つのメリット
ワンタイムパスワードの導入によるメリットは、不正アクセスの防止から管理負担の軽減まで多岐にわたります。 ここでは、企業がワンタイムパスワードを導入することで得られる5つのメリットを解説します。
◇不正アクセスを強力に防ぐ
ワンタイムパスワードは一度しか使えず有効期限も短いため、万が一フィッシング詐欺などでパスワードが盗まれても悪用されるリスクを大幅に低減できます。
また、1つのパスワードが破られるとほかのサービスにも不正ログインされる「パスワードリスト型攻撃」の対策としても有効です。従来の固定パスワードが持つ根本的な脆弱性を克服し、不正アクセスを強力に防ぎます。
◇面倒なパスワード管理が不要になる
ワンタイムパスワードでは、ログイン時にその都度発行されるパスワードを使用するため、サービスごとに複雑なパスワードを記憶したり、定期的に変更したりする必要がありません。
さらに、パスワードを忘れて再設定する手間が省けるだけでなく、覚えやすく単純なパスワードを設定してしまうといったヒューマンエラーの防止にもつながります。
◇自分に合った方法で認証できる
ワンタイムパスワードは、専用のハードウェアトークンやスマホアプリ、SMS、メールなどのさまざまな方法で受け取ることが可能です。利用者は自身のITリテラシーや利用環境に応じて、最も利便性の高い方法を選択できます。
この柔軟性により、従業員への導入もスムーズに進めやすくなるでしょう。
◇リモートワークの安全性がアップする
リモートワークにおいて、社外からVPNを通じて社内システムへアクセスする際のセキュリティは重要な課題です。ID・パスワード認証にワンタイムパスワードを追加することで認証を強化し、なりすましによる不正アクセスを防止できます。
ワンタイムパスワードを利用すれば、許可された従業員のみが情報資産へ安全にアクセスできる環境を構築できます。
◇サービスの信頼度が向上する
特に、インターネットバンキングやECサイトなどの金銭や重要な個人情報を取り扱うサービスにとって、高度なセキュリティ対策は不可欠です。ワンタイムパスワードの導入は、企業がセキュリティ対策に真摯に取り組んでいる証となり、ユーザーに安心感を与えます。
結果として、顧客からの信頼を獲得し、サービスのブランドイメージ向上にもつながります。
■ワンタイムパスワードの3つのデメリット

ワンタイムパスワードはセキュリティを大幅に高める一方で、利便性の面ではいくつかの課題があります。 ここでは、利用するうえで知っておきたい3つのデメリットを解説します。
◇ログインに一手間かかってしまうこと
ワンタイムパスワードを導入すると、従来のIDとパスワードの入力に加えて、ワンタイムパスワードの確認・入力という手順が必要になります。
セキュリティ面の強化には有効ですが、ログイン操作が増えることで利用者に「手間が増えた」と感じられることもあります。こうした利便性の低下が、導入をためらう要因になるケースも少なくありません。
◇端末がないと認証できなくなる
ワンタイムパスワードを受け取るスマートフォンやハードウェアトークンは、認証における物理的な「鍵」として機能します。
そのため、端末を紛失・盗難された場合や、故障・電池切れなどで使用できない場合はログインができなくなります。万が一の事態に備え、代替の認証手段や復旧手順を事前に準備しておくことが重要です。
◇通信状況によってパスワードが届かない
SMSやメールでワンタイムパスワードを受け取る場合、通信環境が不安定な場所ではメッセージの受信が大幅に遅れたり、届かなかったりすることがあります。
特に、移動中や電波の弱い場所ではログインできないこともあり、利用者にとっては大きなストレスになる可能性があります。業務システムなどでは、緊急時の対応策を検討しておくと安心です。
■「ワンタイムパスワードは意味ない」は本当?安全性を高める対策
ワンタイムパスワードは非常に強力な認証手段ですが、「導入していれば100%安全」というわけではありません。 ここでは、ワンタイムパスワードが抱えるリスクと、安全性をさらに高めるための具体的な対策について解説します。
◇ワンタイムパスワードでも防げない攻撃とは?
代表的な脅威として、利用者を偽サイトに誘導し、入力されたID・パスワードとワンタイムパスワードをリアルタイムに窃取して不正ログインする「リアルタイムフィッシング」が挙げられます。
また、利用者のパソコンをマルウェアに感染させ、正規のログイン後に通信を乗っ取り、送金先口座などを裏で改ざんする「MITB(マン・イン・ザ・ブラウザ)攻撃」も、ワンタイムパスワードだけでは防ぐことが困難です。
しかし、ワンタイムパスワードに意味がないわけではありません。これらの攻撃の存在を認識し「ワンタイムパスワードでも突破されるリスクがある」という前提で対策を講じることが重要です。
◇安全性をさらに高めるための具体的な対策
基本的な対策として、OSや利用するソフトウェア、セキュリティ対策ソフトを常に最新の状態に保ち、脆弱性を放置しないことが不可欠です。
また従業員に対しては、安易に不審なメールやSMSのリンクを開かない、公式サイトはブックマークからアクセスするなど、フィッシング対策の教育を徹底することが求められます。
さらに、技術的な面では指紋や顔認証などの「生体認証」を組み合わせることで、ワンタイムパスワード単体よりも強固な多要素認証を実現できます。
◇トランザクション署名の導入でより強固なセキュリティを実現
MITB攻撃のような、通信内容を改ざんする攻撃に対して特に有効なのが「トランザクション署名」です。これは、振込先の口座番号や金額といった取引情報そのものをワンタイムパスワード生成の計算に組み込む仕組みです。
万が一、マルウェアによってブラウザ上で送金先が改ざんされても、利用者の手もとで生成された署名(パスワード)は元の正しい取引情報に基づいています。そのため、改ざんされた情報とは一致せず、サーバー側で不正な取引をブロックすることが可能です。
■スピーディに多要素認証を実現するなら「GMOトラスト・ログイン」
クラウドサービスの利用拡大やリモートワークの普及により、従業員が管理すべきIDとパスワードは増加の一途をたどっています。それにともない情報漏洩のリスクも高まっています。 このような背景から、認証情報の一元管理と認証処理の効率化を実現するサービスとして「GMOトラスト・ログイン」の活用がおすすめです。
GMOトラスト・ログインは、ワンタイムパスワードによる多要素認証や、8,500以上のサービスに対応するシングルサインオン(SSO)機能も提供しています。 さらに、クライアント認証やパスワードレス認証など、より高度かつユーザーの運用時の煩わしさも軽減できるセキュリティ機能も選択可能です。累積導入社数は1万社を突破しており、20年以上の実績を持つ認証局が提供する信頼性の高いサービスです。企業のセキュリティ強化とID管理の効率化を同時に実現できます。
ワンタイムパスワード(OTP)はシングルサインオンと組み合わせて活用することで、IDパスワード単体での運用よりも認証強化の効果を高めることができます。社内の体制や既存環境との親和性など、導入にお悩みの企業様は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。
■まとめ
ワンタイムパスワードは不正アクセス対策として非常に有効ですが、ログインの手間が増える点や、フィッシング攻撃などの巧妙な手口には突破されるリスクも存在します。 これらの課題を解決し、セキュリティと利便性の双方を高いレベルで実現するためには、認証基盤そのものを見直すことが重要です。
GMOトラスト・ログインであれば、導入も容易で、ワンタイムパスワードを含む多要素認証も導入できます。さらに、利便性向上のためのシングルサインオンも実現できるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人

GMOグローバルサイン株式会社
トラスト・ログイン事業部
プロダクトオーナー
森 智史
国内シェアNo.1のSSL認証局GMOグローバルサインで10年間サポート部門に従事。抜群の知識量と分かり易い説明で多くのお客さまからご支持いただく。
現在は自社IDaaSのプロダクトオーナーとしてお客さまの意見を伺いながら使いやすくセキュリティの高いサービスを開発者たちと共に作成中。